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第76話  

作者: リンフェイ
佐々木家の姉の末っ子が追いかけてきて泣き叫んだ。「陽くんの持ってる飛行機がほしい!」

 陽はすぐに自分の飛行機のおもちゃを前に隠して、緊張した様子でいとこを振り返りながら「ママ、抱っこ、ママ、抱っこ」と叫んだ。

 唯月は息子を抱き上げた。

 「唯月、陽くんにおもちゃを私の子に貸してあげるように言って。この子はお客さんだから、陽くんは譲るべきよ」

 佐々木家の姉は近づくと、末っ子の涙を拭き取ってから立ち上がり、陽の飛行機おもちゃを奪おうと手を伸ばした。陽は手を離さなかったが、その姉は無理やり奪おうとした。

 その時、唯花夫婦に気づき、結城理仁が手に大きな袋をいくつも持っているのを見て、すぐに手を引っ込めた。

 そして笑顔で内海唯花に挨拶した。「唯花ちゃん、お久しぶり。この方があなたのご主人?なんてハンサムで、堂々としてるのかしら!」

 ハンサムなだけではなく、その気品や風格は、自分の大企業で部長をしている弟よりも何倍も素晴らしい。

 佐々木家の姉は内海唯花に少し嫉妬した。

 「お義姉さん、お久しぶりです。こちらは私の主人で、結城と言います」

 佐々木家の姉は慌てて結城理仁に挨拶した。

 理仁は軽く会釈したが、何も言わず、とても冷たい感じだった。

 玄関に入って、佐々木家の姉が陽のおもちゃを奪って自分の息子に渡そうとしているのを見た瞬間、理仁に好感はなかった。陽は年下だし、おもちゃも彼のものなのに、なぜ従兄に譲らなければならないのか?

 理仁は身内を大切にするタイプの人間で、他人の子供を満足させるために自分の子供を犠牲にすることは決してない。

 彼は陽のことをとても気に入っていて、陽が不当に扱われるのを見過ごすことはできなかった。

 佐々木唯月は妹夫婦に中へ入るように呼びかけ、佐々木家の姉は自分の末っ子を抱き上げた。その子は甘やかされて育ったようで、まだ陽のおもちゃが欲しいと泣き続けていた。

 佐々木俊介の両親は、内海唯花夫婦がこんなに多くの贈り物を持ってきたのを見て、満面の笑みを浮かべた。以前は唯花のことをあまり好んでいなかったが、今や彼女は結婚して家を出て、夫がトキワ・フラワーガーデンに家を持っていたり、大企業で幹部をしていると聞いていたから、唯花に対する態度は180度変わったのだ。

 皆座った。

 結城理仁は買ってきた物
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    内海唯花がご飯を食べる速度はとても速く、以前はいつも唯花が先に食べ終わって、すぐに唯月に代わって陽にご飯を食べさせ、彼女が食べられるようにしてくれていた。義母のほうの家族はそれぞれ自分が食べることばかりで、お腹いっぱいになったら、全く彼女のことを気にしたりしなかった。まるで彼女はお腹が空かないと思っているような態度だ。「母さん、エビ食べて」佐々木俊介は母親にエビを数匹皿に入れると、次は姉を呼んだ。「姉さん、たくさん食べて、姉さんが好きなものだろ」佐々木英子はカニを食べながら言った。「今日のカニは身がないのよ。小さすぎて食べるところがないわ。ただカニの味を味わうだけね」唯月に対する嫌味は明らかだった。佐々木俊介は少し黙ってから言った。「次はホテルに食事に連れて行くよ」「ホテルのご飯は高すぎるでしょ。あなただってお金を稼ぐのは楽じゃないんだし。次はお金を私に送金してちょうだい。お姉ちゃんが買って来て唯月に作らせるから」佐々木英子は弟のためを思って言っている様子を見せた。「それでもいいよ」佐々木俊介は唯月に少しだけ労働費を渡せばいいと思った。今後は海鮮を買うなら、姉に送金して買ってきてもらおう。もちろん、姉が買いに行くなら、彼が送金する金額はもっと多い。姉は海鮮料理が好きだ。毎度家に来るたび、毎食は海鮮料理が食べたいと言う。魚介類は高いから、姉が買いに行くというなら、六千円では足りるわけがない。佐々木家の母と子供たち三人は美味しそうにご飯を食べていた。エビとカニが小さいとはいえ、唯月の料理の腕はかなりのものだ。実際、姉妹二人は料理上手で、作る料理はどれも逸品だった。すぐに母子三人は食べ終わってしまった。海鮮料理二皿もきれいに平らげてしまい、エビ半分ですら唯月には残していなかった。佐々木母は箸を置いた後、満足そうにティッシュで口元を拭き、突然声を出した。「私たちおかず全部食べちゃって、唯月は何を食べるのよ?」すぐに唯月のほうを向いて言った。「唯月、私たちったらうっかりおかずを全部食べちゃったのよ。あなた後で目玉焼きでも作って食べてちょうだい」佐々木唯月は顔も上げずに慣れたように「わかりました」と答えた。佐々木陽も腹八分目でお腹がいっぱいになった。これ以上食べさせても、彼は口を開けてはくれない。佐々木

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    佐々木俊介は彼女を睨んで、詰問を始めた。「俺はお前に一万送金しなかったか?」それを聞いて、佐々木英子はすぐに立ち上がり、急ぎ足でやって来て弟の話に続けて言った。「唯月、あんた俊介のお金を騙し取ったのね。私には俊介が六千円しかくれなかったから、大きなエビとカニが買えなかったって言ったじゃないの」佐々木唯月は顔も上げずに、引き続き息子にご飯を食べさせていた。そして感情を込めずに佐々木俊介に注意した。「あなたに言ったでしょ、来たのはあなたの母親と姉でそもそもあんたがお金を出して食材を買うべきだって。私が彼女たちにご飯を作ってあげるなら、給料として四千円もらうとも言ったはずよ。あんた達に貸しなんか作ってないのに、タダであんた達にご飯作って食べさせなきゃならないなんて。私にとっては全くメリットはないのに、あんた達に責められて罵られるなんてありえないわ」以前なら、彼女はこのように苦労しても何も文句は言わなかっただろう?佐々木俊介はまた言葉に詰まった。佐々木英子は弟の顔色を見て、佐々木唯月が言った話は本当のことだとわかった。そして彼女は腹を立ててソファに戻り腰掛けた。そして腹立たしい様子で佐々木唯月を責め始めた。「唯月、あんたと俊介は夫婦よ。夫婦なのにそんなに細かく分けて何がしたいのよ?それに私とお母さんはあんたの義母家族よ。あんたは私たち佐々木家に嫁に来た家族なんだよ。あんたに料理を作らせたからって、俊介に給料まで要求するのか?こんなことするってんなら、俊介に外食に連れてってもらったほうがマシじゃないか。もっと良いものが食べられるしさ」佐々木唯月は顔を上げて夫と義姉をちらりと見ると、また息子にご飯を食べさせるのに専念した。「割り勘でしょ。それぞれでやればいいのよ。そうすればお互いに貸し借りなしなんだから」佐々木家の面々「……」彼らが佐々木俊介に割り勘制にするように言ったのはお金の話であって、家事は含まれていなかったのだ。しかし、佐々木唯月は徹底的に割り勘を行うので、彼らも何も言えなくなった。なんといっても割り勘の話を持ち出してきたのは佐々木俊介のほうなのだから。「もちろん、あなた達が私に給料を渡したくないっていうのなら、ここに来た時には俊介に頼んでホテルで食事すればいいわ。私もそのほうが気楽で自由だし」彼女も今はこの気分を

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第316話

    しかも一箱分のおもちゃではなかった。するとすぐに、リビングの床の上は彼のおもちゃでいっぱいになってしまった。佐々木英子は散らかった部屋が嫌いで、叫んだ。「唯月、今すぐ出てきてリビングを片付けなさい。陽君がおもちゃを散らかして、部屋中がおもちゃだらけよ」佐々木唯月はキッチンの入り口まで来て、リビングの状況を確認して言った。「陽におもちゃで遊ばせておいてください。後で片づけるから」そしてまたキッチンに戻って料理を作り始めた。陽はまさによく動き回る年頃で、おもちゃで遊んだら、また他の物に興味を持って遊び始める。どうせリビングはめちゃくちゃになってしまうのだ。佐々木英子は眉間にしわを寄せて、キッチンの入り口までやって来ると、ドアに寄りかかって唯月に尋ねた「唯月、あんたさっき妹に何を持たせたの?あんなに大きな袋、うちの俊介が買ったものを持ち出すんじゃないよ。俊介は外で働いてあんなに疲れているの。それも全部この家庭のためなのよ。あんたの妹は今結婚して自分の家庭を持っているでしょ。バカな真似はしないのよ、自分の家庭を顧みずに妹ばかりによくしないで」佐々木唯月は後ろを振り返り彼女を睨みつけて冷たい表情で言った。「うちの唯花は私の助けなんか必要ないわ。どっかの誰かさんみたいに、自分たち夫婦のお金は惜しんで、弟の金を使うようなことはしません。美味しい物が食べたい時に自分のお金は使わずにわざわざ弟の家に行って食べるような真似もしませんよ」「あんたね!」逆に憎まれ口を叩かれて、佐々木英子は卒倒するほど激怒した。暫くの間佐々木唯月を物凄い剣幕で睨みつけて、佐々木英子は唯月に背を向けてキッチンから出て行った。弟が帰って来たら、弟に部屋をしっかり調べさせて何かなくなっていないか確認させよう。もし、何かがなくなっていたら、唯月が妹にあげたということだ。母親と姉が来たのを知って、佐々木俊介は仕事が終わると直接帰宅した。彼が家に入ると、散らかったリビングが目に飛び込んできた。そしてすぐに口を大きく開けて、喉が裂けるほど大きな声で叫んだ。「唯月、リビングがどうなってるか見てみろよ。片付けも知らないのか。陽のおもちゃが部屋中に転がってんぞ。お前、毎日一日中家の中にいて何やってんだ?何もやってねえじゃねえか」佐々木唯月はお椀を持って出て来た。先

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第315話

    それを聞いて、佐々木英子は唯月に長い説教をしようとしたが、母親がこっそりと彼女の服を引っ張ってそれを止めたので、彼女は仕方なくその怒りの火を消した。内海唯花は姉を手伝ってベビーカーを押して家の中に入ってきた。さっき佐々木英子が姉にも六千円出して海鮮を買うべきだという話を聞いて、内海唯花は怒りで思わず笑ってしまった。今までこんな頭がおかしな人間を見たことはない。「お母さん」佐々木英子は姉妹が家に入ってから、小さい声で母親に言った。「なんで私に文句言わせてくれないのよ!弟の金で食べて、弟の家に住んで、弟の金を浪費してんのよ。うちらがご飯を食べに来るのに俊介の家族だからってはっきり線を引きやがったのよ」「あんたの弟は今唯月と割り勘にしてるでしょ。私たちは俊介の家族よ。ここにご飯を食べに来て、唯月があんなふうに分けるのも、その割り勘制の理にかなってるわ。あんたが彼女に怒って文句なんか言ったら、誰があんたの子供たちの送り迎えやらご飯を作ってくれるってんだい?」佐々木英子は今日ここへ来た重要な目的を思い出して、怒りを鎮めた。しかし、それでもぶつぶつと言っていた。弟には妻がいるのにいないのと同じだと思っていた。佐々木唯月は義母と義姉のことを全く気にかけていないと思ったのだった。「唯月、高校生たちはもうすぐ下校時間だから、急いで店に戻って店番したほうがいいんじゃないの?お姉ちゃんの手伝いはしなくていいわよ」佐々木唯月は妹に早く戻るように催促した。「お姉ちゃん、私ちょっと心配だわ」「心配しないで。お姉ちゃんは二度とあいつらに我慢したりしないから。店に戻って仕事して。もし何かあったら、あなたに電話するから」内海唯花はやはりここから離れたくなかった。「あなたよく用事があって、いつも明凛ちゃんに店番させてたら、あなた達がいくら仲良しの親友だからって、いつもいつもはだめでしょ。早く店に戻って、仕事してちょうだい」「明凛は理解してくれるよ。彼女こそ私にお姉ちゃんの手伝いさせるように言ったんだから。店のことは心配しないでって」「あの子が気にしないからって、いつもこんなことしちゃだめよ。本当によくないわ。ほら、早く帰って。お姉ちゃん一人でどうにかできるから。大丈夫よ。あいつらが私をいじめようってんなら、私は遠慮せずに包丁を持って街中を

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第314話

    両親が佐々木英子の子供の世話をし、送り迎えしてくれている。唯月は誰も手伝ってくれる人がおらず自分一人で子供の世話をしているから、ずっと家で専業主婦をするしかなかったのだ。それで稼ぎはなく彼ら一家にこっぴどくいじめられてきた。母と娘はまたかなり待って、佐々木唯月はようやく息子を連れて帰ってきた。母子の後ろには内海唯花も一緒について来ていた。内海唯花の手にはスーパーで買ってきた魚介類の袋が下がっていた。佐々木家の母と娘は唯月が帰って来たのを見ると、すぐに怒鳴ろうとしたが、後ろに内海唯花がついて来ているのを見て、それを呑み込んでしまった。先日の家庭内暴力事件の後、佐々木家の母と娘は内海唯花に話しに行ったことがある。しかし、結果は唯花に言いくるめられて慌てて逃げるように帰ってきた。内海唯花とはあまり関わりたくなかった。「陽ちゃん」佐々木母はすぐにニコニコ笑って彼らのもとに行くと、ベビーカーの中から佐々木陽を抱き上げた。「陽ちゃん、おばあちゃんとっても会いたかったわ」佐々木母は孫を抱きながら両頬にキスの嵐を浴びせた。「おばあたん」陽は何度もキスをされた後、小さな手で祖母にキスされたところを拭きながら、祖母を呼んだ。佐々木英子は陽の顔を軽くつねながら笑って言った。「暫くの間会ってなかったら、陽君のお顔はぷくぷくしてきたわね。触った感じとても気持ちいいわ。うちの子みたいじゃないわね。あの子は痩せてるからなぁ」佐々木陽は手をあげて伯母が彼をつねる手を叩き払った。伯母の彼をつねるその手が痛かったからだ。佐々木唯月が何か言う前に佐々木母は娘に言った。「子供の目の前で太ってるなんて言ったらだめでしょう。陽ちゃんは太ってないわ。これくらいがちょうどいいの」佐々木母は外孫のほうが太っていると思っていた。「陽ちゃんの叔母さんも来たのね」佐々木母は今やっと内海唯花に気づいたふりをして、礼儀正しく唯花に挨拶をした。内海唯花は淡々とうんと一言返事をした。「お姉さんと陽ちゃんを送って来たんです」彼女はあの海鮮の入った袋を佐々木英子に手渡した。「これ、あなたが食べたいっていう魚介類です」佐々木英子は毎日なかなか良い生活を送っていた。両親が世話をしてくれているし、美味しい物が食べたいなら、いつでも食べられるのに、わざわざ弟の家に来

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